私は彼の目を見つめてから、息を吸った。


「じゃあ……今、キスして」


緊張しているのを悟られまいと一気に言うものの、どこか声がおかしく聞こえる。
なのに、斑鳩は表情を変えない。

 
いつも、私に資料を渡しに来るときのような顔で、近づいてくる。
それが悔しい。


 
でも、私は言わねばならないことがある。


「私、兄とセックスしていたのよ」


あと一メートル程のところで、斑鳩の目を見つめながら私はそれを口にした。
案の定斑鳩の足が止まり、私の目をじっと見てくる。

 
嘘だと思っているだろうか。
気持ちが悪い、汚れていると思っているだろうか。

実の兄のことぐらい、斑鳩だって知っているだろう。

 
これは教えなくてもいいことなのかもしれない。
だけど、私は言いたかった。


 
そんな私でも、好きだと言ってくれるのか、不安だった。


「俺が選挙に出たのは、貴方がいたからです」


ところが第一声は、私が予想していたものとはかけ離れすぎていた。
寧ろ、話の脈絡がわからないぐらい、違う話になっている。


「覚えていますか? 一年の頃は同じクラスでした。貴方はクラスに馴染もうともせず、どこか強気で。それでもいつも寂しそうな瞳をしていました」


唖然としてしまった私に構わず、斑鳩は話を続ける。