「ねえ、そのハンカチ」

「はい」


一瞬だけバックミラーで私のことを確認する。


「いい加減、新しいのにしたら?」


私の言葉に、嶌田の横顔が驚いてから笑ったように見えた。


「いえ、こればかりは」


信号で停まって、バックミラーに映る私に謝っているのだろう。
私のところから見える嶌田は、今までに見ないぐらいの笑顔を浮かべている。


「じゃあ」


青に変わって発進する頃を見計らって、私は口を開いた。
外の景色を眺めながら。


「今度、新しいのをプレゼントするわ。だから、そっちを使って」


嶌田の顔は見えなかったけれど、ええ、と頷いたのだけはわかった。

 

外の景色は、夕日も大分傾いて段々と藍色に染まり始めている。
それでも街灯、店の看板、自動販売機、道を照らすものはたくさんのものがある。

勿論、嶌田の運転するこの車も。

 
真っ直ぐ、進む道を照らして、この車は進んでゆく。