「そうね。妹だもの、甘えさせて頂くわ」


ゆっくりと答えると、私は立ち上がった。


「また来る。ありがとう」


兄が笑顔で頷くのを確認してから、私は玄関へと向かう。

 
もう、いつもの頑張れよ、と言う声は聞こえてこなかった。
それでも、私はやっていける気がした。
根拠なんてない。
 
だけど、そう思えるだけで充分だった。


 
エントランスを出れば、嶌田が車の前で立って待っていた。
私を確認して、ほっとしたのか柔和な表情を見せる。

 
何も言わず後部座席のドアを開けてくれ、私が座ると優しく閉める。
隣には、学校に置いてきた鞄があった。


「鞄、どうしたの?」


運転席に戻ってきた嶌田に尋ねると、バックミラーに映った顔が笑っているのに気がついた。


「学校に迎えにあがりましたら、眼鏡の男性が出てきまして。今日はお帰りになったことと、鞄を預かりましたよ」

「眼鏡……背の大きい?」

「ええ。優しく礼儀正しい青年でした」


そうか。

少し笑いたくなるようなため息が出た。


「お礼に、行きますか?」


まだ車を発進させないまま、嶌田が言う。
珍しく、振り返って私の方を見ていた。