「なんで、私を抱いてくれたの?」


あの日、私は兄の隣で寝ていた。
それは単に安らぎを求めていたのか、期待をしていたのか。
いや、兄をどうにか休ませたいと思っていたのか。

 
進路のことで葛藤を繰り返していた兄の部屋を訪れ、他愛のない話をして少し疲れて横になっていた。

 
ただ、それだけ。
そんな些細なこと。

 
兄の顔が近づいてきたとき、私に拒む理由はなかった。


「いや」


座ったままの兄が、少し考えるように俯いてから笑う。


「抱かれていたのは、俺だな。お前の優しさに甘えていたんだ。それが、結果的にお前を傷つける、汚すことだとわかっていても」


その笑顔を見た瞬間、私の心が妙にすっきりとした。

そうだったのか、と思うと漸く足が動く。
兄の側に近寄って、私も笑う。


「じゃあ、お互い様なのね。私も、甘えていたわ。他に何もいらないと思える程、好きだった」


きっと、私たちのことなんて他の人にはわからない。
狂った愛情に走った兄妹だと言われても仕方がない。


「俺も、お前のことが好きでたまらなかった。だけど、もう甘えていられない」


兄の手のひらが私の頬を包む。
暖かな手のひらは、もう味わえないわけじゃない。

 
ちょっとだけ、二人の関係が変わるだけだ。

 
大丈夫、例え他人にわかってもらえなくたって。

自分たちが、きちんと知っている。


 
そこに、真実があったことを。