頬を、温い液体が流れてゆく。
抑えることすら考えられず、ただひたすらに頬を伝って落ちてゆく。


「その兄貴が、今お前を突き放そうとしているんだ。頭のいいお前なら、わかるだろう」


そう言う兄の顔が、涙の向こうで微笑んでいる。

 
わかりたくない、こんなこと、わかりたくもない。

だけど、もう兄にしがみつきに行けない自分がいた。
ただその場に立ち尽くして、泣くしかなかった。


 
どれぐらい、そうしていたのだろう。
久しぶりに出た涙は、止まることを知らなかった。

 
その間、兄は一度もその椅子から立ち上がらなかった。
いつもなら優しく、強く抱きしめてくれるのに。


 
どうして、兄は何も言わなくても私のことがわかるのだろう。
いや、いつもそうだった、そんなこと知っていた。

 
ならば、今日ここに来たのは何故。
兄に、止めて欲しかったから?
そんな男、相手にするなって言って欲しかったから?


 
多分、違うんだろう。
だからこんなに涙が出るのだ。

 

兄が離れていってしまう寂しさと。
もう駄目なんだ、という覚悟と。


今までの私に決別するために、溜め込んだ涙を流してしまっているのだろうか。


「ねえ」


涙が枯れ始めた頃、私はずっと心の中にしまっていた言葉を口にした。