「大丈夫か」


後ろから声をかけられ振り向くと、兄がミネラルウォーターの入ったグラスを渡してくれた。
一口含むと、その冷たさが気持ちが良い。


「その顔は、大丈夫じゃない、って感じだな」


微笑んでいるようで、兄の顔は落ち着いていた。
部屋に戻る兄を追うように、私も洗面台から出て行く。


毎晩来ている兄の部屋が、少し別のもののように思えた。
珍しく昼間に来ているからだろうか。
眩しい日差しが、大きな窓から部屋を明るく照らしていた。


「ついに、男が現れたか」


デスクの椅子に座った兄が、ドアの前に立っている私に向かって笑顔で言う。


「図星か」


 兄の側に行こうか迷っていた私は、その場に立ち尽くしてしまった。


「どうして」


上手く、言葉が出てこなくて、声も掠れてしまう。
突然、目の前に壁が現れたような気分になる。


「俺はお前の兄貴だ。誰よりもお前のことを知っている自信がある」


兄の表情は、外では見せないとても柔らかい微笑みに変わっている。


「お前が動揺する、しかも学校をサボって俺のところに来るような出来事。それしか考えられないからな。しかも、はっきり言われたんだろう?」


兄が、誰を言っているのかがわかった。
同時に、私の中で認めたくないという意思が生まれる。