屈折カタルシス[短篇]

無言の車中は私に眠気を誘ってくる。
うつらうつらした私に気づくと、嶌田はどうぞ、といつものように言う。
私の隣にはひざ掛けが丁寧に畳まれている。

夜出かけるときは必ず嶌田が積んでいた。

 
今日もそれを肩にかけ、私は後部座席に身体を倒す。
眠りに堕ちようとする私の妨げにならないようにと、嶌田はより一層丁寧に運転をし出す。

 
本当に、馬鹿みたいに忠実な男なのだ。
たかが十七の小娘に、ここまで尽くす男がいるだろうか。


 
初めて会ったとき、この男はまだただの若い運転手だった。
嶌田だって、やっかいな奴の運転手になったと思っていただろう。

 
私だって、余計なことを、と思っていた。


だから何も言うこともなく、ただこの車に乗っていた。
ただ車の内装だけお願い事をしただけだ。

後はほとんど会話がなかった。
最初はそれこそ嶌田は話しかけようと必死だったが、全て徒労に終わると無口になっていった。


 
それが変わったのは、半年過ぎた頃だったろうか。

 
私立の中学は幾人か私と同じように資産家や社長の子どもなどがいたが、その子たちとは違い、私が周りに馴染むことはなかった。
いや、周りはいくらでも近寄ってきた、ただ私がそれを素直に受け入れなかった。

 
どれだけ、人が良さそうに見えても本当のところはわからないから。