屈折カタルシス[短篇]

「相変わらずよ。みんな、一緒」


隣に腰を下ろし、答える私に兄は笑う。
兄も同じ高校を卒業している。
五つも上だからあまり皆知らないかと思えば、私立の中高一貫校故に大概の者が知っていた。

どちらにしても地元の有名人ではあるのだが。


「変わらないこともいいことだ」


兄はその言葉が好きだ。
変革を求められていない環境だからなのかもしれないが、私はその真意を知っている。


 
本当は、何よりも変わりたいと思っているのだ。
ただ、変わらなくていいこともあると知っているだけ。


そしてそれが自分の人生の大部分を占めていることを知っているだけ。


「恋人は」

「その質問、何度目?」


無邪気に笑う兄は、小さい頃から変わらない。
いつも私の面倒を見てくれ、大事な妹として扱ってくれた。


 
多分、今もそう。


私にとって鶴賀 隼は兄に間違いなかったし、その思いは今も変わらない。
きっと兄にとっても私、鶴賀 朔奈は妹なのだ。

 
それでいい、ううん、それがいい。

妹、というだけで私は兄にとって特別な存在だ。
それ以上のものなんて望めるわけがない。


「妹の幸せを願っているんだがな」

「よく言うわ」


無駄な脂肪のない身体に、まだ汗が浮かんでいた。
その腕にあの肌の感触を思い出しつつも、時計の針はもう十一時を指している。

忠実な嶌田は、どこかで私の連絡を待っているのだろう。