はらはらと雪が舞う。

空を見上げれば。
次から次から。
白く冷たいそれが。ゆっくりと。
気紛れに。揺れる様に。


だけど、確実に落ちて来る。


僕だけに向けて、落ちて来る様な感覚。


道の端に並ぶ木々には、電飾が付けられて。

赤や黄色、青、緑、白…


沢山の色が、忙しそうにキラキラと輝いていた。


その横の歩道を、幸せそうな家族連れやカップルや…それに混じって、今日一日を寂しく終わらせない為に集まったのであろう男女の団体が歩く。


まるで、電気に集まる羽虫の様だ。


平日の夜に、この道が人で溢れかえるのは、今夜くらいなものだろう。


道路の雪は溶け、水溜まりとなったそれを、行き交う車が跳ね上げる。



僕達は、それを眺めていた。


いや。

側から見れば、交差点に立っているのは、彼女一人。

僕には、魂の入れ物が無い。

随分前に無くしてしまったのだ。


交差点に立つ彼女は、僕が愛した人。

それなのに。
彼女が自ら命の火を消そうとしているのに…


僕はただ、見つめるだけ。

触れる事も出来ない。

話す事も。

僕の存在を知らせる術は何も無い。



彼女の手に、小さなケーキの箱。
コートも着ず、傘も差さずに、ただただ、道路を眺めている。


強い光を浴びる度に、目を瞑り、ケーキの箱を持つ手に力を込める。


僕はそれを、祈る様に見つめるだけ。





何度も、強い光をやり過ごした後。


スリップしたトラックが、僕ら目掛けて走って来た。



トラックは、僕の体をすり抜けて…


そして。

彼女が宙を舞う。


跳ね上がった彼女は、ゆっくりゆっくり、弧を描いて、降り積もった雪の上に落ちた。


彼女から流れ出る命は、雪を溶かし、辺りを赤に染める。



赤と白。


まるで。
彼女が抱えていた、ケーキの様だ。


彼女の回りには、沢山の人。

目を覆ったり。口を押さえたり。叫ぶ人達の真ん中に。

動かない彼女。



赤に染まったその上に。

全てを隠してしまおうと



白が積もる。