「私は絶対、仲間になんかならない!」

私が叫びながら下がると、羽根をもつ少年は私に歩み寄る。

『ふん。人間のどこがいいんだ。空も飛べない。弱くて儚くて、すぐに死ぬ。全く魅力を感じないね。』

嘲笑うかの様に話す少年に棒を突き付けながら、後ろをちらと見る。

私の後ろには窓。隠れる場所は無い。

少年に突き付けている棒だって、ただの箒の柄だ。こんな物で戦うなんて、馬鹿げているのは分かっている。だいたい、持っているのが剣だったとしても、勝てる見込みなんて無いに等しかった。

『諦めなよ。僕の血を飲めば仲間になれるんだ。残っているのは、君だけだよ?簡単な事じゃんか。それだけで強く、永遠に美しくいられるんだよ?』

「嫌だ!仲間になんか、なりたくない!!絶対…!」

突然、私の左側から何かが飛んで来た。それを私は、掌で弾き飛ばす。
地面に落ちたのは、白いチョークだった。投げたのは、私の友達。いや。今は悪魔に心を売った、元友達か。

私の気が逸れた瞬間、左腕に激痛が走った。焼ける様な痛みに、私は持っていた棒を放す。
棒が地面に落ちた時の甲高い音が、教室に響き渡った。

激痛がする場所に目をやると、羽根のある少年の指が見える。
華奢で白くて、美しい。見とれるほど綺麗なその指に、どうしてこんな力があるのか…

『痛い?人間は弱いからね。仲間になれば、痛みからも開放されるのに。ねぇ?』

少年は囁く様に言った。私は大声で叫びたいのをこらえ、少年を睨み付ける。
少年はにやりと口だけで笑い、私から離れた。

地面に崩れ落ちながら、私は左腕を擦る。腕には、少年の細い指跡がくっきりと残っていた。

『その跡は消えない。永遠にね。』

私は立ち上がりながら、もう一度、少年を睨み付ける。
少年の綺麗な顔立ちに、心奪われそうになる自分に腹が立った。

『またね。』

少年が言うと、私の体は浮き上がり、窓の外へと飛ばされた。

声を上げる間も無く、私は中庭へと落ちて行った。







「…!」

足が落ちる感覚に、私は飛び起きた。

ここは中庭じゃない。
保健室だ。

「夢…。」

そう呟いて左腕を擦る。



そこにはくっきりと、細い指の跡が残っていた。