「俺の正室になる人です! 絶対に渡しません」

「いくらなんでも正室を男にするのは止めなさい。私に渡せばいいのです」

 この国の皇族は一夫多妻制だ。

 血筋を絶やさないためのものだが、さすがに男性を正室として迎えた者はいない。

「!」

 2人のやりとりをはしばらく眺めていたベリルの耳に、カチリ……という微かな音が聞こえた。

 視線をゆっくりとそちらに向ける。

 視界の先には部屋の扉があり、静かに開かれていく──それに気付いたのはベリルだけだ。

「?」

 音もなく開かれる扉を、怪訝な表情で見つめる。