「!?」

 しかし、目の前にいたはずのベリルの姿が無い──男はすかさず視線を下に向ける。

 そこには、エメラルドの双眸(そうぼう)が無表情に自分を見上げていた。

「っ!?」

 冷たい宝石に息を呑む。

「貴様の動きは読みやすい」

 カシアスはベリルの怒りを読み取れなかった。

 感情を表さない瞳の奥にある、その激しい怒りを──

「がっ!? あ……」

 飛び退こうとしたカシアスの胸にナイフが深々と突き刺さる。

「貴様には、泣き叫ぶ子どもの声が聞こえないのか」

 力なく寄りかかる男に、ささやくように発した。

「ぐっ、う……殺しに違いなど、あるものか」

 重く床に倒れ込んだカシアスを見つめて眉をひそめる。