「……ありません。僕の、負けですね」


「当たり前よ。こんな雑な将棋指してたら負けるに決まってるわ」


「負けましたからね。返す言葉はありません」


雑な将棋のせいかはともかく、あわれにも僕の玉将は名も無き雑兵に打ち取られた訳だ。


パチンパチンと、盤面に散った駒達を元の位置へと戻していく。


僕と香歩さん。


僕ら二人はこの高校で将棋部を名乗り、今日もこうして埃まみれの使われていない教室で非公認ながら部活動に勤しんでいる。


「戦法として『囲い』を活用するならキチンと相手の手も見なさい。『囲い』ばかり先に決めようとすれば中途半端な形で攻められて簡単に試合は終わってしまうんだから」