盤面は夕陽の朱に染まり、王手のままで止まっている。 もう二度と動く事のない局面。 時間のように巻き戻る事もないし、同じ盤面になることも、きっとない。 静謐と赤光に彩られた教室に駒の音が響く。 互いの駒が最初に戻っていく。 盤面はまた、駒が舞い戦いの音を響かせ始めるのだ。 二度と戻る事のない局面に盤面が動き出す。 その日最後の対局も僕から始まった。 けれど終わりを告げたのは香歩さんの一手。 通算、零勝三九九敗。