……世界はうるさい。


つまらなそうに、彼女は吐き捨てる。


パチンと小気味いい音を鳴らし、僕の対面に座る香歩さんは『玉将』の先に『と金』を進めた。


「王手」


『玉将』の切っ先。一回り小さな『と金』が自身の切っ先を『玉将』に突きつけている。


けれど僕の視界にあったのは『と金』でも『玉将』でもなく、盤の端。


『角行』と刻まれた一枚の大駒。斜め方向ならば他の駒に当たるまでどこまでも行ける強力な駒がそこにある。


そしてその『角行』がぶつかる駒は『と金』。


背後に逃げ道のない僕の『玉将』。


それが差す現実は淡白に『詰み』である。