昔から夕妃が好きだったハッカの香りの香水。

でもボクはこの匂いが大っ嫌いだった。

だからたとえ薄い残り香だとしても嗅ぎ取れる自信がある。

トントンと鼻を指しながらボクがいうと、波狼は慌てたように自分の袖を嗅いで確認する。

優しくて純粋それが時にあだになる。

いつも言ってるのに直りゃーしない、この馬鹿さ加減。

今は、腹立たしさを加速させるさりげない仕種にボクはチッと小さく舌打ちして波狼の腕をわしづかみした。


「その、いつものハロの天然さがさ、今はボクの神経を逆なでするんだけど」


押し込めたはずの殺戮衝動が奥底でメラッと再燃する。


「早く言って。
でないと、ハロでも容赦出来ない」


「・・・・・・っ」


大事で大切な愛しい赤の他人。

ボクが初めてそう思えた相手は、いまボクの目の前で顔を歪めている。

傷付けたくないと思ってるのは本当。

大事で大切だから。

でもずっとずーっと心の奥で殺らなきゃって思ってたのも本当。

ボクはいつでも何処でも逃亡者だから。

自分の罪から逃れようと必死な逃亡者。

馴れ合いは荷物になる。



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