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扉が開いて中に入ってきたのはパーティーの日に姫と踊っていた男だった。



チラリと姫を見ると、驚いたように目を見開いている。



入ってきた男は歯の浮くような台詞で姫に挨拶した後、国王陛下の前で跪き、姫に結婚を申し込んでいる。



俺はなるべく会話を聞かないように無心を心がけた。



今度こそ、本当に姫は結婚するのだ。



ずっと俺の腕の中で無邪気に笑っていた姫が他の男のものになる…



もし俺がどこかの貴族に生まれていたら、俺は今すぐにでも彼女を連れ去るだろう…



叶わない事と知りながら、俺がそんな考えに頭を巡らせていると不意に自分の名を呼ぶ声が聞こえた。



「……ット、ヴェネットっ!」

「はいッ」



俺が慌てて国王陛下の方を見ると、「何だ、聞いていなかったのか」と陛下が頬杖をつきながらニヤニヤと笑っている。



一体何事かと思っていると、姫に求婚した男が面倒くさそうにこちらに向かって口を開いた。