百合の体を、言葉にならない感情が駆け巡る。
百合は一生懸命、自分に言い聞かせようとした。

わたしは先生の婚約者。
わたしは先生の婚約者。
わたしは先生の婚約者。

だけど・・・

「やめて!」
百合はありったけの力をこめて、桜庭の肩を押し戻した。

百合の抵抗に、憮然とする桜庭。
「百合ちゃん。俺たち結婚するんだよ?いいじゃないか、これくらい」

「ごめんなさい」
分かってます。
結婚したら、「これくらい」では済まされないってことも。

「それとも」
桜庭が続けた。

「忘れたわけじゃないよね?あの約束」

忘れてません。
忘れるわけがありません。
私の人生で3番目に最悪な事態を回避してくれたのは、間違いなく・・・先生です。