かえりみち


「洗濯物、入れますね」

ふいに後ろから声がした。
卓也だった。

窓を広げようと卓也の手が、由紀子の顔に近づく。

「来ないで!」

発作的に由紀子が叫んだ。
そして卓也をにらみつける。
追い詰められ、疲れきった目。
その顔には、いつもの優しく穏やかな由紀子の面影はない。

「分かってるわよ!何回謝ったって無駄なことくらい!」

「え?」

「ビーフシチューだって、オムライスだってハンバーグだって!いくら作ったって無駄なことくらい!」

とまどう卓也を残し、由紀子は泣きながらまくし立てる。
「しらばっくれないで!これが、あなたの復讐なの?!そうやって私が一生苦しむのを見て、楽しんでるわけ?」

由紀子は、傍にあった花瓶をつかみ、卓也の胸に突きつけた。
「お願いだから!同じようにしなさいよ!私があなたにしたのと、同じようにしてちょうだいよ!」

「・・・」
卓也はあまりの出来事に驚いたのか、身動き一つできないでいる。

由紀子はつかんだ花瓶を、自分の頭に打ちつけようとした。

「やめて!」
卓也が由紀子の腕をつかんで止めた。
花瓶は由紀子の手を離れ、挿してあった花もろとも床に落ちた。


「由紀子!」
状況に気づいた幸一が、リビングに駆けつけ二人の間に入った。
由紀子は力尽きて、幸一の腕の中にくずおれた。