バス停に向けて、歩く二人。
高伊の駅からの帰り道と同じ―
ゆっくりと、しばらく無言で。

今度こそ、本当に最後だね。
あなたは今、何を考えているの?

それに応えるように、卓也が口を開いた。
「いろいろと・・・ありがとね」

「そういうの、嫌だな。お別れみたいで」
百合はわざと明るく振舞ってみせる。
今は一応仕事中でもあるし・・・タクの前で泣いたりしたら、何か感づかれるかもしれないし。

「そんなこと言ったって。ユリにはいっつもご飯食べさせてもらってたし、あの時だって。ユリが見つけてくれなかったら、・・・僕はきっと死んでた」

・・・そうかもね。
良かった、生きててくれて。

「・・・。タク。」
百合は卓也の横顔を見上げた。

「いいチェリストになってね」

精一杯の気持ちをこめて言ったのに、卓也は首をかしげる。
「うーん。なれるかなぁ」

「ちょっと!絶対なってよ?」
思わず力が入ってしまった。
でも、こういう所も、タクらしいよね。

「わ、わかったよ。がんばるよ」

お別れみたいで嫌と言ったくせに、結局お別れみたいな会話をしている自分に気づいて、百合は苦笑した。

「まぁ、そんな離れたところに行くわけでもないんだし。実家みたいなつもりで、ちょくちょく顔見せに来てね。お兄ちゃんも寂しいと思うし」

卓也の答えを聞く前に、二人はバス停に着いてしまった。
タイミングが良いと言うべきか悪いと言うべきか、ちょうどバスがやってきてバス停に止まった。