かえりみち

まあ、そういうわけさ。

行くあてがなさそうだったから、しばらくうちに置いてやることにしたんだけど。
チェロを弾く以外は、まあ、控えめに言ってすんごく不器用で。
何をするにもすんごく時間がかかって。
しかも行動が、半オクターブはずれている。

例えば、買い物を頼んだら、
牛乳を頼めば、飲むヨーグルト
醤油を頼めば、麺つゆ
キャベツを頼めば、キャベ2
・・・という具合だ。

だけどなぜか、一緒にいても飽きない奴だった。

子供のときに何かあったんだろう。
向こうが話さないから、別に聞かないけど。
こいつは、人前に出ることを極端に恐れた。
そして、学院に入ってからも、誰とも打ち解けることはなかった。
なぜだか、俺と百合だけは違った。
俺らの前では、フツーに話した。
フツーに笑った。
フツーにチェロを弾いた。
なんでだろう。分からない。
本人に聞いたって、分からないんだろうな。

それにしても・・・

「お前、よくオーケーしたよな。」

「え?」

「初対面の島田さんとこに行くって」

「あぁ・・・」
卓也は、含んだような笑みを浮かべた。