俺がそう言うと、卓也は目を鳩が豆鉄砲食らったみたいに見開いた。

「な、ない?だってここ、楽器工房ですよね?阿南敬介さんの」

「表の張り紙を見なかったのか、このすっとこどっこいが。阿南敬介はね、先月急死したの。作品は、もう残ってねぇよ」

「え・・・亡くなった・・・」
あいつの顔から、見る見る血の気が失せていく。
あいつは、親父が死んだことを本当に知らずに来たらしく、相当なショックを受けていた。

俺は嘘をついていた。
在庫はまだ地下室にある。
でも、「楽器を買いたい」って言ってくる奴のことは、はなから信用しないことにしてたんだ。親父が死んで以来、バイヤーが何人もやってきては、親父の遺品を言い値で買い叩いてったから。

言葉を失い宙をさまよっていた卓也の瞳が、作業場の隅に釘付けになった。