「タクの引越しの手伝いをする」という名目で、春樹は音楽院の学生寮に来ていた。
実際は、ベッドに寝転んでボーっとしていただけだったけど。
荷物が少ないので、特にすることがなかった。
飾り気のない部屋。
というより、何もない部屋。
無機質なベッドと、机、それにイス。
あとは春樹と、卓也と、スーツケース。
そしてチェロ。
それだけ。
ちょうど今、卓也が部屋に最後まで残っていたガラクタをスーツケースに収めたところだ。
相変わらず荷物の少ない奴だ。
3年前、最初にうちに来たときと同じ。
親父が死んで間もない頃だった。
そのスーツケースを引いて、フラリと現れて。
「チェロを一つ、ください」って言ったんだ。
それがこいつとの始まりだった。
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「チェロ?そんなもの、ねぇよ」