教室に残された三人。

「ごめんな、葛西。力になれなくて・・・」
ドイツで実績を積んではいても、安川はここに来てまだ半年。
今や学院内で一番の権力者となった小早川大教授を、反駁する術は持ち合わせていなかった。

卓也は、吹っ切れたような笑みを浮かべた。
きっともう、覚悟ができていたのだろう。
「いえ。安川教授にはほんとにお世話になりました。ありがとうございました」

「どうするんだ、これから」

「・・・」
そこまでは、まだ考えていなかったようだ。

「まあ、うちに来ればいいさ」

「いや。」

いつも優柔不断な卓也が、なぜかここだけはきっぱりと返事をした。

「自分で部屋を借りるよ。コンビニでバイトでもして、なんとか食べていけるんじゃないかな」

「お前、コンビニをなめるなよ。厚揚げとさつま揚げの違いも分からないのに、勤まる訳ないだろうが」

「分かるよ!それ位」

「じゃ、言ってみろよ」

「厚揚げは茶色くて・・・」

「さつま揚げは?」

「・・・茶色い・・・」

安川は確信した。
自分がコンビニエンスストアの経営者だったら、絶対にこの若者を採用しないだろう。

そのとき、開いていた教室の扉から、幸一が入ってきた。
そして、まっすぐ卓也の前に来る。

「島田?」

突然の出来事に、驚く卓也。

そして幸一が放った次の一言に、その場にいた全員が驚いた。

「君。・・・うちに来ないか?」