かえりみち



もうそろそろ、いいわね。

由紀子は、炒めていた鍋に水を入れた。
続けて、赤ワインも。

久しぶりに、ビーフシチューを作っている。

幸一さんのダイエットのために、しばらく和食が続いたけど。
たまに作らないと、腕がなまっちゃうから。
あの子が帰ってきたら、また作ってあげるの。
それまで、味を落とさないようにしておかなくちゃ。

二人の大好きな、ビーフシチュー。
わたしにしかできない、二人を笑顔にする方法。


あら、もう日が暮れたわ。
カーテン閉めなきゃね。

外は濃いブルーの闇に包まれている。

由紀子が窓際へ近づくと、二階から幸一のチェロが聞こえた。
歩のために作ってあげた、あのプレリュードの下のパート。

由紀子には分かっている。
幸一は、寂しくなるとこの曲を弾くのだと。
上のパートを心の中で口ずさみながら、弾いているのだと。