車は10分ほどで、高伊駅に着いた。
午後9時を過ぎた駅前は、どの店もシャッターを閉め切り、閑散としている。

車を降りた卓也を追うように、百合も車の外に出た。

向き合う二人。
優しい夜の空気のほかは、二人を隔てるものは何もない。
何もないのに、いつものような普通の会話が出てこなくて、二人はとまどった。

「・・・いろいろ、ありがとね」
やっと発した卓也の言葉に、百合は微笑んで首を横に振った。

「・・・じゃあ、行くね」

卓也が改札のほうへ足を向ける。

百合が突然、
「ねえ」
と声をかけた。

振り向く卓也。

「・・・看護師が一緒にいたら、役に立つと思わない?」

そう言うと、百合はちょっと恥ずかしそうにうつむく。
頬が心なしか、淡いピンク色に染まっている。
そんな百合を見たのは初めてだった。
そのいじらしい姿に、卓也は百合の手を取ってしまいたい衝動に駆られた。

役に立つどころの騒ぎじゃない。
分かってる。
看護師じゃなくたって、
僕にはユリがいなきゃ、全然ダメってことくらい。

「・・・ありがとう、ユリ」

卓也は言い尽くせない感情を込めて微笑んだ。