協奏曲は、ゆったりと叙情的な第2楽章、そして生き生きと駆け出すような最終楽章へ、休む間もなく移り行く。

オーケストラとチェロが、波打ち際に寄せてくる波のようにメロディーを互いに紡ぎながら、最高潮のフィナーレへ突き進んでゆく。

そして、全ての楽器が高みに突き抜けた、その余韻をホールに残したまま動きを止めた。

曲が終わったのだ。

一瞬の静寂。
その後、割れるような拍手が、わき起こった。
聴衆が、次々と立ち上がっていく。

感極まった井上が、指揮台を飛び降り、呆然と座っている卓也の手を取った。
一段と拍手が大きくなる。

目の前の状況を理解するのに、少し時間がかかったが、やがて、卓也の顔に笑みが戻る。

怪訝な表情の紳士も、冷たい視線の男女も、もうそこにはいなかった。
どの人々もこの新しいチェリストに心からの賛辞を送っていた。
暖かな光の中心で、卓也は幸せそうに微笑んだ。