かえりみち


と、客席で何かが光ったような気がして、卓也は我に帰った。
光った先に目を向けると-


そこに百合のうるんだ瞳があった。
卓也と目が合った百合は、微笑んでうなずいてみせる。
いつもの笑顔。

「チェロ、弾いてよ」
昨日、そう言ったときに見せたのと、同じ笑顔。

「ずっとチェロ、弾いていてね」
そう言ったときに見せたのと、同じ笑顔。

それを見ている卓也。
病室で幸一に言われた言葉を、ふと思い出しした。

「世界でたった一人でも、
自分の演奏が好きだと
言ってくれる人がいるなら。
それが、弾き続ける力になる。」

卓也の脳裏に浮かぶ幸一の優しい穏やかな笑顔と、百合の笑顔がだぶって見えた。

「君にもきっと、そういう人がいるはずだ。」

卓也は、その言葉の意味をやっと理解した。




僕にも、そういう人がいる。