初めて彼と言葉を交わした、あの雨降りの夜-
二人の幸せのために、自分が消える覚悟をした彼の瞳は、この世で最も美しいものでした。
でも以前のように、傷つけようとは思いませんでした。
人を傷つけることにしか興味がなかった私が、この小さな、美しくも冷え切った魂をどうやったら暖められるのか、一生懸命考えていたのです。
人が生まれることに、ひとつひとつ意味があるとすれば-
私は彼が、人を愛するということがどういうことなのかを私に教えに来てくれたような気がしてなりません。
今、私にできるのは、それをそのまま、彼に返すことです。
最初と同じ、一人に戻ります。
でも、寂しくはありません。
不思議と穏やかな気持ちです。
阿南百合さま
今まで本当にありがとう。
あなたの幸せを、心から願っています。
葛西正卓 」



