「どうしても手紙を書かずにはいられなかったのです。
あなたに謝り、そしてお礼を言いたかった。
何の関係もないはずのあなたを巻き込み、余計な秘密を背負わせてしまったこと。
それなのに、この三年間、卓也を暖かく受け入れ見守ってくれたこと。
あなたには、何をもってしてもお返しできない恩をかけていただきました。
手紙は、もう結構です。
先日、末期のガンと宣告されました。
悪行の限りを尽くしてきた、罰なのでしょう。
一人で死んでも誰にも迷惑をかけない場所を、見つけに行こうと思います。
迷惑ついでに、あなたに一つお願いがあるのです。
三年前、卓也を訪ねて工房へ行ったときに、私はあなたに彼がうちに来ることになった経緯をお話ししましたが、あれは全部忘れてください。
卓也が自ら望んでうちにとどまったのではなく、私が卓也を、無理やり家に連れ帰ったことにしてほしいのです。
彼は帰りたかったけれど、私が怖くて帰ることができなかった、ということにしてほしいのです。
私が死んでも、彼の記憶の中には、私と過ごしてしまった日々が事実として残るでしょう。
彼が両親のもとに戻ったときに、その事実がまた、彼らを苦しめることになりはしないか。
それが少し、心残りなのです。
どうか、どうかお願いします。
最後に、本当のことを書かせてください。



