テーブルを挟んで、幸一と由紀子の向かいに百合が座っている。

少しの沈黙の後、百合は話し出した。

「タクがうちに来てからの3年間、時々タクのお父さんに手紙を書いてました。タクがきちんとお二人のところに帰るまで、見届けたいと言われたので」

幸一は言葉を失った。
「君はもしかして・・・」

「はい。私、全部知ってたんです」

百合が顔を上げ、二人を見る。

「今朝、病院から帰ってきたら、私宛にこれが届いてました。封が開いていたので、タクはこれを読んだのだと思います」

百合がひざに置いていた白い封筒を、二人の前に置く。

「タクの・・・お父さんからです。読んだらすぐに捨ててほしいと、書かれていますけど」

百合は封筒を、二人のほうへ差し向けた。

「タクが何を思って出て行ったのか、これを読めば分かります。読んでください」

顔を見合わせた後、幸一が封筒を手に取り、中に入っているものを取り出した。
白い便箋が数枚、三つ折になっていた。
便箋を開くと、ボールペンで書かれた線の細い字が目に入った。

手紙は、こんな出だしで始まっていた。

「阿南百合様

突然の手紙をお許しください。あなたに手紙を出すのは、これが最初で最後になると思います」