二人が出ていったのを確認すると、幸一は向き直って桜庭医師の方を見た。

「桜庭先生」

「はい?」

幸一は包帯が巻かれた自分の肩に触れる。

「これ、外してください」

部屋に衝撃が走った。

「島田さん。あなたまさか、彼が戻らなければ自分が弾くつもりですか?」

「…」

「無理ですよ!今動かしたら、本当に一生弾けなくなりますよ!?」

「そうですか、分かりました」
幸一は桜庭医師を見つめた。

「では、外してください」

桜庭は言葉を失った。

「あの子が戻れなくてコンサートが中止にでもなったら、彼の演奏家としての未来がなくなってしまうんですよ」

幸一はもう、覚悟はできているのだろう、微塵の迷いもない。

「お願いします」

幸一は桜庭医師に、深々と頭を下げた。