どれくらい時間が経ったのか。
チェロにもたれたままの格好で、卓也は目が覚めた。
眠っていたのか、気を失っていたのか、よく分からない。
周りが白っぽくてよく見えない。
まだ夢の中にいるような、そんな感覚。

今、何時なんだろう。
もう「今日」になっているんだろうな。
よく分からないけど、もうそろそろ明け方だろう。
やっとこの日が来た。

卓也が、乾ききった口を開いた。

「あと、もう少し・・・」

弓を握った右手に、搾り出すように最後の力を込めた。

あと、もう少し。
僕は今日、ステージに立ってチェロを弾く。
島田さんの「生きる希望」になるんだ。
それは僕の「生きる自信」でもある。

そしたら、今度こそ・・・
うちに、帰れる。
ような気がする。

卓也はチェロにもたれたまま、弓を弦にあてた。
そして、ゆっくり弾き始めた。

この曲を。
パパが僕に作ってくれたこの曲を。
また、二人で弾くんだ。
日差しの降り注ぐ、僕の部屋で。

そして、力尽き、卓也はステージの上に倒れた。