幸一の病室に入ろうとした由紀子が、足を止めた。 中で幸一が、外からわずかに聞こえてくるチェロの音色に耳を澄ませているのに、気づいたからだった。 由紀子は、音を立てないように静かに部屋に入ると、窓を開けてあげた。 爽やかな風とともに、チェロの音色が部屋に入り込む。 窓辺に立った由紀子の位置から、下の緑地帯で卓也が無心にチェロを弾いているのが見える。 幸一と由紀子は、顔を見合わせて微笑んだ。 「卓也・・・いい顔して弾いてるね?」 「えぇ。分かる?」 「あぁ」 幸一は、満足げにうなずいた。