古ぼけた欄干に目をやる卓也。

14年前、僕はここで、自分の人生を終わらせようとした。

卓也が上を見上げた。
空がまぶしい。

その視線の先、欄干の上に立った歩がこちらを見ている。

卓也が、歩に手を差し伸べた。

「・・・帰るよ」

「・・・それもまた、大変だと思うよ?」
引っ込み思案の歩が、最後の抵抗を見せた。

「分かってる」

「また、不幸を呼ぶかもしれないよ?」

「分かってる。どの道を選んだって、同じことさ」

「・・・」
やがて、差し伸べられた卓也の手に、小さな歩の手が重なり、一つになる。


ちょっと寄り道が長くなったけど、
ここから、僕はうちに帰ろう。

一つの場所に向けて歩き出した卓也の目に、もはや迷いの色はなかった。