立ち尽くす卓也。
小さくなっていくタクシーを見ている。

「・・・」

-幸せになれ。
その言葉の裏側にあるものが、卓也にはよく分かった。
自分も少し前に、その言葉をある人にたむけたから。

幸せになれ。
それは、その言葉は・・・

愛する人に贈る、最後の言葉。
自分の手では幸せにしてあげられない人への、せめてもの祈りの言葉。

川を渡る一陣の風が、卓也の体を吹き抜け、迷いを吹き飛ばしていく。

青い空。
日の光を浴びて、きらきら光る水面。
萌黄色の川岸。

タクシーの姿は完全に消え、卓也は一人になった。
でも、不思議と孤独ではない。
自分には帰る場所がある。