「悪いのは、僕なんだ」

あの子は、最初から気づいていたんだろう。
僕が、目の前のあの子を見ていなかったことに。

一生分の優しい言葉を、かけたつもりだった。
これ以上はないというくらいの誠意と熱意を傾けて、チェロを教えたつもりだった。
一緒に時を過ごし、心を通わせた、つもりだった。

だけどそれは、卓也に、ではない。

歩にしていたのだ。

僕は目の前のあの子を見ずに、その向こうに見える歩の幻に、一生懸命話しかけ、愛を注いだ。
あの子はそれに気づいていた。
それが、どんなに孤独で残酷な仕打ちか。

幸一は、たまらなくなった。
無意識のうちに、アクセルを踏む足に、力が入っていた。