喫茶店に入ると、こっちだと手を上げる窓際の男。
幸一の旧友、安川だった。

幸一の顔に、笑顔が広がった。
「安川!」

「島田!元気そうだな」

「あぁ。聞いてたよ、ドイツでの大活躍。行く前は色々心配してたけど、君の性に合ってたみたいだな、教師の仕事は」

「そうなんだ。今は天職だと思ってるよ」

「そして、名門音楽院の名誉顧問として凱旋帰国か」

「まあ、君の活躍に比べれば大したことじゃないさ。で、早速だけど。お願いした、チェロ学科のゲスト講師の話」

「君の頼みなら断れないよ、で、いつにしようか?」

14年ぶりに会う親友の話はなかなか尽きない。
2杯目のコーヒーが冷めてきた頃、安川の口が初めてよどんだ。

「ところで、その・・・

君の家族は、どうしてる?」