「・・・・・コレは?」


 アレから数日後、タケルは父に呼び出された。


 板張りの床に、一段高くなっている王座。


 両側にランタンがある意外に、特に見るものもない。


 他国に比べ、非常に質素な王宮の作りらしいが、タケルは他の王宮を知らないので比べようが・・・いや、一国だけ知っているが、アレはアレで別格だろう。


 あんな宮殿では、そこで暮らすほうが疲れてしまう。


「天叢雲剣(あまのむらかみのつるぎ)・・・俺が腰につけている剣だ。お前だって見覚えがあるだろう?」


 床に胡坐を書きながら、ひじを突いているスサノオウ。


 彼は何を思ったのか、今日突然タケルにその剣を投げつけたのだ。


「知っております。しかし、何ゆえ唐突に私に?」


 一方、タケルはというと、正座の姿勢のまま、王に面と向かうように座っている。


 タケルとスサノオウ。今、この王座には他に誰もいない。


 親子の会話を邪魔しまいという家来の配慮というよりは、父が人払いをしたのだろう。


「お前は、俺の息子たちの中でもっとも剣に優れている。」


 そりゃ、政治や文学にはげくむ兄に比べ、自分は剣で勝るしかないという考えを持っているからなのだが・・・。


「まさか・・・」


 タケルにいやな汗が流れたのが分かった。


 冗談ではない。


 これから田植えの季節が始まるのだぞ。


 田植えをしなければならないし、土地も耕して種まきの準備もしなければならない。


 魚だって川に戻ってくるし、くまも冬眠から起きてくる。


 これから、忙しくなるというのに・・・。