「特に、相手が鬼ならな。」
ヤレヤレと、立ち上がり、金時の隣に立ち、敗軍の様子を伺う。
つかれきった男たちの顔が見える。
槍は折れ、盾はボロボロに砕け、つれている馬は見当たらない。
人数も遠征に出たときに比べ3分の2に減っているのでないだろうか?
「鬼?」
知らないのか・・・コレだから、山育ちというのは・・・。
「出雲の国に鬼が出たらしくてな。田畑が荒らされているらしい。町人も何人か犠牲になったとか?」
「出雲の国にか・・・そんな遠い国の出来事ならば、放っておけばいいだろう。」
お前は、本当に馬鹿だろう。
「母上がその国の出身でなければ、放っておくさ。」
「あ。」
ようやく気がついたか、このうつけ者が。
「出雲の軍でも歯が立たないらしくてな、向こうの王が、泣く泣く父上に助けを求めてきたのだ。距離もあり、海も越えなければならないので、あまり父上は乗り気ではなかったのだがな、母上の手前、断るわけにも行かなくてな。」
タケルの母、クシナダは格段、出雲の王家というわけではないが、それでも出雲はクシナダの生まれ育った地である。
その国の王が助けてくれと求められてくれば、無下には出来ないのが、大和王、スサノオウという男だ。