「そのような理由、俺が知る由もない!未練を残すほど器の小さき男のつもりはない!」


 オロチは剣を振り上げる。


 隙があるような動きでありながら、それは、ただ単に相手の隙を生み出すための陽動だというコトが分かる。


 動きに無駄がない。


 こちらは、オロチの剣を避けるのが精一杯だ。


 くそっ!くそっ!!


「しかし、そなたは実際に鬼となった!出雲に災いを成した。違うか!」


「あぁ、そうだよ!出雲も大和も那須も全て、俺の力だ!あぁ、俺のせいだよ!」


 だが、その質問をした瞬間に隙が出来た。


 オロチの剣の動きが一瞬だけ鈍ったのだ。


 その隙を見逃すほど、桃太郎は甘くはない。


「恥れ者が!」


 桃太郎がヤマタノオロチに勝っている部分があるとすれば、体格と身体の柔軟性だろう。


 すっかり、成人の体格をしているオロチに対して、元服を終えたばかりの桃太郎はマダマダ子供の部分が残っていたのだ。


 刹那に生まれた隙。


 桃太郎は、瞬時に屈むとオロチの足と足の間をくぐるような形で、彼の背後に回りこんだ。


 蹴鞠の球が、股と股の間を潜り抜けるようなことがあるが、桃太郎が行った行為は、まさにそれだ。


「なっ!」


 叫んだときは遅い。


 背後を取った桃太郎は、瞬時に立ち上がるとオロチの首に剣をつきたてる。


 勝負あり。


 一瞬でも油断したオロチの敗北だった。