その島は、まか不思議な島だった。


 乙姫の船を使い、出雲の国よりさらに西に立つ孤島。


 そこは、未だ人の手が入っておらず、道らしき道はなく、家らしき家は一つもなかった。


 男はそこにただ、釣りをしていた。


 ただ、じっと何をするでもなく、川に向かって釣り糸をたらし、森の中に存在する小川を眺めていた。


「・・・・・・・・タケル様、あの者は・・・。」


 さすがは、仙人の使い。


 乙姫は一目で気がついたか。


 アヤツは、この世のものではない。


「失礼する。私は大和国の王子、ヤマトタケルと申すもの。そなたは、噂にたがえぬなら、ヤマタノオロチとお見受けしてよろしいか?」


 剣を構え、たずねる。


 殺気を隠そうとすらしない。


 目の前にいるのは鬼。


 俺はコイツを退治するために、半月かけて大和の国からはせ参じたのだ。


「・・・・・・さよう。」


 男は短く返事をしただけだった。


 短い髪の毛の割りに、長くのびた髭。


 彫りの深い顔に、安物の麻で出来た着物。


 彼が生前最後の姿だったのだろうか。


「ならば、そなたを鬼と成し真剣勝負を挑みたい。」


 桃太郎はついに剣を抜く。


 いざ、尋常に勝負だ。