「そこだ!」


 大和の国の傍には、大きな山があり、そこがヤマトタケルの訓練場というべき場所であった。


 戦神の父を持つタケルにしてみれば、剣術はあって当たり前の技術。


 王子という立場であるがゆえに、タケルは国の誰にも負けるわけには行かなかった。


「甘いわ!!」


 タケルの訓練に付き合うのは、おかっぱ頭の巨漢の男。


 重量感溢れる身体に、丸っこい顔。


 自分好みの赤い絹のチャンチャンコを着込み、鉞(マサカリ)を振り回す姿は、まさに地獄の門番である鬼を思い出す。


 男の名は、坂田金時。


 タケルの幼少からの友人である。


「だから、そこが甘いというのだ。」


 金時は、その見た目通りというべきか、得意とする獲物が鉞というところから見ても分かるとおり、国でも他に並ぶもののいないほどの怪力である。


 相撲や力比べで彼に勝てるものは、いないだろう。


 だが、ここは山の中であり、タケルは剣の稽古をしていた。


 大降りで地面に突きつけられた鉞を軽々と避けると、タケルは狐すら後ろから追いつけるという自慢の足で、金時の後ろに回り、剣を立てた。