暫し訪れた沈黙に、小鳥と鳶の歌声だけが響く。

陽に照らされても冷たい風は二人を通り抜け、秋を知らせる。



「今はまだ」

その便りを受け取りながらも、ずっとまだ無理だと思ってきた。

「何れそのときがきたら、兄上にも語れるかと」

そして今もまだ、秋を知らないまま過ごしていたいと思う。


否、きっと一生秋を知らずに生きてゆくのだと。



小さく零した言葉に、兄が「そうか」と頷くのを見届けて、継虎は再び庭へと目を移した。


鮮やかに咲き誇る桔梗、風に揺れる枝葉。


二人の間に訪れたのは心地よい沈黙、だがそれもやがて小さな足音で消されてしまう。



いつの間にか枝にいた小鳥は、雀一羽になっていた。



【了】