空を流れる雲を見て、継虎は小さく息をつく。


「必要ないとはまた……すずは報われぬな」

独り言のように口にした兄には応えず、ただゆっくりと瞼を閉じた。



どれほど想えど、二度と手にすることはないそのぬくもり。

それは代わりのものなど通用せず、ひたすらに身を焦がすのみ。

何度も願ったその想いを、幾度も噛み締め、押し殺してきた。



「竹」

呼ばれた名に、瞼を押し上げる。


再び目にした空に鳶が一羽泳いでいた。


「言えぬなら、言わずとも良い。だが忘れないでおくれ。私はいつもお前を頼りにしているのだ。お前がいなければ、私はただの弱虫だ」

さよさよと流れる小川のような声に、継虎が「そんなことは」と返すも言葉の続きは手で遮られる。


「私もそうだが、いずれお前も家の為に為すべきときが来ようぞ」


ふっと力の抜けた笑顔で言う僅かな言葉に、継虎は倍以上の意味を知る。

だがそれは家の為などではなく、国の為なのだとわかっていた。


そしてその流れは抗うものではないということも。