言いかけた言葉は溜め息に代わり、澄んだ空に溶けていった。
それを見てまた笑う兄の顔が、朝日に照らされる。
屋敷へ上がろうと履物を脱いだところで、別の者が円座を持って来た。
庭を向いて座ると、先程の鵯に加え雀が数羽、枝で遊んでいるのが見えた。
「遠い目をするようになったな」
囀る小鳥を眺める継虎に、兄がぽつり零す。
首を動かせば兄も樹の上の小鳥を見ているようだった。
「すずが気にかけておったぞ。最近お前の様子が変だと」
ゆっくりと話すその姿をまた横目に、継虎は庭先へと顔を向ける。
「何かあったか」
窘めるわけでも怒るわけでも、ましてや愉しむ様子もない淡々とした兄の問いに、ふと夏が蘇る。
何もかも知らない国、そこで手にしたものはかけがえのない大きなぬくもり。
「言えぬなら、恋煩いかもしれぬな」
今度はくくくと喉を鳴らした兄に、どう言うべきかとも迷う。
「いや……煩ってなど」
ただあながち間違いでもなく、真実でもない。
「その様なこと……必要ないと」
あれを恋と言うには幼過ぎる。
あれを思い出と言うには近過ぎる。
それを見てまた笑う兄の顔が、朝日に照らされる。
屋敷へ上がろうと履物を脱いだところで、別の者が円座を持って来た。
庭を向いて座ると、先程の鵯に加え雀が数羽、枝で遊んでいるのが見えた。
「遠い目をするようになったな」
囀る小鳥を眺める継虎に、兄がぽつり零す。
首を動かせば兄も樹の上の小鳥を見ているようだった。
「すずが気にかけておったぞ。最近お前の様子が変だと」
ゆっくりと話すその姿をまた横目に、継虎は庭先へと顔を向ける。
「何かあったか」
窘めるわけでも怒るわけでも、ましてや愉しむ様子もない淡々とした兄の問いに、ふと夏が蘇る。
何もかも知らない国、そこで手にしたものはかけがえのない大きなぬくもり。
「言えぬなら、恋煩いかもしれぬな」
今度はくくくと喉を鳴らした兄に、どう言うべきかとも迷う。
「いや……煩ってなど」
ただあながち間違いでもなく、真実でもない。
「その様なこと……必要ないと」
あれを恋と言うには幼過ぎる。
あれを思い出と言うには近過ぎる。



