「わあ! 見て見て‼ わたし達、おんなじクラスだよっ!」

「分かったから、そんなに大はしゃぎしないの。まるで小学生みたいだよ、もう」

 自分の腕を珠結の腕に絡ませ、張り出された白紙の前ではしゃぐ里紗は相変わらず外見的にも内面的にも子供っぽい。里紗が指差す先の文字をを辿ってみれば、里紗の名前の左方に確かに自分の名前がある。今年はE組、A組から順に見ていくと思えば、かなり手間が省けた。

「何よー。六分の一の確率なんだから、3年間同じクラスになれない可能性も大アリだっていうのに! 珠結は嬉しくないのお!? ひどいっ」

「そんなことないって。ただ去年に増してかーなーり、にぎやかくなるなあとは思ったけど。嬉しいよ、うん」

「…そう言っといて、どうして遠い目をしてるのー!? 珠結にはわたしへの愛が1㎜も見えないっ。わたしはこんなに愛してるというのに、うう。一方通行な片想いかあ~~。この薄情者ぉ!! わたしの気持ちをさんざ玩んでおいて…」

「ちょ、やめてってば!! 何、その変な誤解を招きそうな言い回しはっ」

 周囲では一緒だ離れただのの応酬で騒然としている。里紗の言うとおり、六分の一の確率は高いとは言えないものである。去年一緒にいた友人達はほとんど離れてしまっていた。

離れても、今までどおりの交流は続くだろうか。いや、新しい友達ができればそっちの関係のほうが重要になってくる。帰宅部の珠結は部活での接点も無い。友達であることに変わりはなくても、距離は空くことは否めない。一つ、積極的すぎる里紗の場合は除いて。
里紗とクラスメートになれたのは、正直に嬉しいことだ。

「一之瀬君は、A組かあ」

 あ、と呟いてから口を押さえたところで遅い。思ったことがすぐに口に出た里紗に、却って笑えてしまう。

「…そうなんだ。あ、清ちゃんはD組かぁ、隣じゃん。体育では一緒だね」

 里紗は少しぎこちなく相槌を打つと他の友人達の名前を探し出した。そうか、離れたか。

双方の教室はおよそ端から端に位置する。唯一体育の授業は他クラスと合同で行なわれるが、A~C、D~Fと3クラスずつ。さらに男子と女子でほとんど授業内容も場所も分けられるため、接点のせの字も無い。

 A組の一覧にこっそり目を通すと、塚本圭太の名前もあった。下段には香坂絵里菜のも。良かったじゃない、と安堵しかけるも即座に振り払う。

「一緒のクラスになれて良かった。里紗、今年もよろしくね」

 不安げにしていたが、うん、と子犬のように目をキラキラさせた里紗と並んで新しい教室に向かう。途中、廊下の窓に目を向けると校庭のソメイヨシノが艶やかな桜吹雪を披露していた。

「何見てるの? あ、桜かぁ、キレー。いいよね、花自体も可愛いけど儚い感じがセンチメンタルな気分にさせてくれるっていうか。…む、わたしには似合わないって思ってない?」

「ないない。うん、私も好きだよ、桜。無性に、泣きたくなる」

 ええっ、泣かないでと抱きつく里紗に冗談だと頭を撫でる。風はすでに止み、花びらがちらほらと舞う程度に落ち着いていた。散ることでその花の命は短くとも、来年の同じ時期になれば再び美しく咲き誇る。それは絶対だと、人々に約束してくれているようで。

 桜咲くこの季節になれば、学年が一つ上がる。珠結達は二年生になった。時が流れるのはなんて早い。光陰矢の如し、特に去年の真冬からの日々は瞬く間に過ぎていった気がする。降る桜の花びらに雨の情景がふと重なり、珠結は記憶のテープを再生し始めた。