あれから一週間近くが経った。学校という狭い空間内での取り巻く環境は、良くも悪くも若干の変化が表れていた。

 良い変化というのは、帆高の教室での居場所が戻ったことだった。そのきっかけを作ったキーパーソンは帆高の親友を自負し、反論の余地も無い塚本圭太だった。風邪で三日後れて登校した彼は、自分の教室で帆高の噂について知った。

『へえ、だから?』

 話し手に対して一言。そのまま隣のクラスの帆高の元に行き、自分が学校を休んでいた時の話を屈託無く始めた。当の帆高もさすがに驚きを隠せなかった。

『あのさぁ。何の根拠もない噂話を天秤にかけてどっちを信じるかなんて、くだらなすぎるよなー』

 顔は帆高に向けたまま、塚本は話の途中で一段と声を上げた。誰に問いかけているのかは、その場にいる誰もが気付いていた。

その時から、クラスメートが遠巻きの態度を改めるようになった。ぎこちなかった友人達はバツの悪い顔で頭を下げ、帆高は『謝ることではない』と和解を受け入れた。おかげで帆高が教室で一人でいることは無くなった。

 珠結はその朝の光景に立ち会えず、2限の休み時間に聞くことができた。一部では共犯扱いにされていて説得力が無い、との理由を抜かしても自分にはできそうに無い。信念を大勢の前で宣言した彼が、とても眩しかった。

 合わせて、傍にいるしか能がないのが悲しくなった。口にすれば、帆高は呆れて『バカ』と頭を小突いた。何故と聞いても自分で考えろとしか答えてくれず、『最初から期待していないのか』そう聞けば怒られた。『鈍い』と言われて、もう考えるのは断念した。

 ふと目を向けた時、帆高が人と笑っているのを見ると笑みを浮かべずにはいられない。彼の幸せ。物心のつきかけていた始めから、長い間ずっと願い続けていた。

だからこそ珠結は見抜いていた。あの笑顔はまだ、心からの物ではないことを。

 帆高に対する風当たりは、以前強いままだった。一歩廊下に出れば好奇や侮蔑の視線にさらされ、遠目から何事かを囁かれる。直接的な攻撃は無いものの、生き地獄と称されても間違っていない。

 帆高は教室外では一人でいる姿勢を崩そうとしなかった。教室を出る帆高を友人が慌てて追いかけ、隣に並んで合流するのを毎日繰り返していた。