‘それ’は、やはり何の前触れもなくやって来た。

 ガタン! ガタガタッ!!

「え、珠結!?」

 机とその上に積まれていた椅子が、派手な音を立てて教室の床に倒れる。同時に珠結もその場に倒れ込んだ。突然のアクシデントに、クラスメート達が掃除道具片手に慌てて駆け寄って来た。

 …あぁ、まただ。突然頭がぼんやりとして眠気が襲いかかり、全身に力が入らなくなる。時と場所を考えず、睡魔はいつだって好き勝手に暴れ出す。今だって珠結の事情など知ったことかと、普通に机を運んでいる最中にこのザマとなった。

 日中に突然耐え難い眠気が襲うことを、‘睡眠発作’という。珠結にとってそれは日常茶飯事で、起きない日など無いと言える。

それでも最近はいつになくおかしい。授業中などの椅子にじっと座っている時ならともかく、体を動かしている最中に発作が起きることは今までなかった。幸いにもこの場合はぐっすり眠りこむことはなく、数分で意識がはっきりしてくる。よって、意識を失ったまま保健室に担ぎ込まれずにはすむ。

「貧血!? 立てる? 保健室行く?」

 覗きこんでくる少女達の顔は一様に心配の表情が浮かんでいる。

「大丈夫、ちょっと足がもつれちゃっただけだから。でも教室の机じゃなくて良かった~。誰かのだったら、バレた時絶対文句言われるでしょ?」

「そりゃ、そうだけど~。ドジだなぁ、珠結は」

「中身、空っぽで良かったよね」

 友人達は呆れたように笑いながら、珠結に代わって倒れた机と椅子を起こした。

「ありがと~。ご親切にねぇ」

 よよ、と泣く真似をすると、「調子いいんだから」と上から頭を小突かれた。笑いながら息をついたのもつかの間。

「…珠結、寝不足なんじゃない? 目、トローンとしてる。すっごい眠そうだよ」

 珠結がなかなか立ち上がろうとしないのを一人が見咎める。咄嗟に目を擦るも、ごまかせてないとばかりに、首を横に振られた。

「えー? またぁ!? もー、そのうち体壊すってば! 高校生なんだから自分の体調管理ぐらいできなきゃダメでしょっ」

 保健委員である、長身の少女が腕を組んで見下ろす。さすが柔道部ばりの体格の良さも迫力にプラスされ、珠結は思わず縮こまった。