「…あったかいなぁ」

 穏やかな日だまりの下、珠結は日光で程よく温まったコンクリートの床に寝転んで伸びをした。目の前に広がる空は清々しいほどに青くて雲ひとつ無く、うっかり夏の空と勘違いしてしまうほどだ。

 北風の吹き荒ぶここ数週間の気候とは打って変わり、今日は何とも心地よい小春日和。こんな穏やかな陽気は本当に久しぶりで、口から欠伸が止まらなくなる。

睡魔の誘惑には乗りたくないものの、強固な生理的欲求には太刀打ちできない。寝ないように努力はしてみるが、念のためにアラームをセットしておかなくては。

 珠結は起き上がって携帯を操作する。音量とバイブレータ、スヌーズは最大設定にしてブレザーの胸ポケットに突っ込む。

振動が直接心臓にくるのは体に良くないだろうが致し方ない。ここまでしなければ、万一寝てしまった時に必ず起きられる保証は無い。

 ギイイィ バタンッ

 再び仰向けになって薄目で空を眺めていると、後方で扉が開くあの音が聞こえた。

ここは本来立ち入り禁止の屋上。念のために内側から鍵を掛けておいたから、入って来られる人なんていないはずなのに。珠結はぼんやりと不審に思った。

 珠結は今扉から見える、ど真ん中の位置にいる。今更物陰に隠れようにも手遅れだ。

 帆高のように何らかの方法で開錠できた生徒ならまだいいが、先生なら間違いなく怒られるだろう。ならばいっそ本当に寝てしまって気づかないでおこう。
それが一時的な現実逃避で、容赦なく叩き起こされる可能性があるとしても。

 足音は目を閉じた珠結のすぐ側まで近づいて来てやんだ。顔に影がかかったのを目を閉じながらも感じて、即座に目を開けたくなる。こういう時に限って眠気はどんどん遠ざかっていってしまう。

 何かが真上から顔に近づいてくる気配がする。そして…額にヒヤッと冷たい感触。

「………なっ!? うぉ、いった!!」

 反射でガバリと跳ね起きたせいで、額と押し付けられていた冷たい物体を思い切りぶつけてしまった。言うまでも無く、眠気は完全に飛んでいった。

額をさすりながら今度こそ上体を起こして顔を上げると、目の前には嫌というほど見馴れた顔があった。